もしかしてもらえてない?処遇改善加算の未払いに関する違法性と解決策

「介護事業所で働いているが、処遇改善加算がもらえているのか分からない」という声や「処遇改善加算の仕組みが複雑で理解しづらい」という悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。処遇改善加算は、介護職員の賃金改善を目的として厚生労働省によって設けられた制度です。しかし、この制度には3種類が存在し、その仕組みは複雑です。

今回では、処遇改善加算の概要と、その未払いがもたらす違法性に焦点を当てます。

また、自分が処遇改善加算をきちんと受け取っているかどうかの確認方法や、問題がある場合の解決策についても解説します。

目次
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介護職員における処遇改善加算とは?

介護職員に対しておこなわれている処遇改善加算には3つの種類が存在するのをご存じでしょうか。処遇改善加算の歴史は2009年に創設された「介護職員処遇改善交付金」が基となっています。

2012年に「介護職員処遇改善加算」に名称を変更し内容を引き継ぐ形で現在まで運用がおこなわれてきました。

参考:介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の概要

処遇改善加算の支給方法

処遇改善加算は、介護職員の安定的な処処遇改善を図るための環境整備とともに、介護職員の賃金改善などに充てることを目的に創設された加算です。ですが、賃金改善といっても「基本給に上乗せされるのか?」「賞与なのか?」など支給方法が気になる方も多いのではないでしょうか。

ここでは、処遇改善加算の支給方法について詳しく解説します。

参考:「介護職員処遇改善加算」のご案内

支給方法に明確な決まりはない

結論から申し上げると支給方法に明確な決まりはありません。支給方法にはいくつかありますが、賃金改善とみなすことができる支給方法には基本給のベースアップ、定期昇給、処遇改善手当、賞与、一時金、賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分等が該当します。

事業所の裁量で支給方法を選択できる仕組みにはなっていますが、基本給による賃金改善が望ましいとされています。「令和3年介護従事者処遇状況等調査」によると、介護サービス全業種における介護職員への処遇改善手当の支給方法は以下のようです。

  • 定期昇給を実施:74.5%
  • 手当の引き上げ、新設:21.4%
  • 賞与等の引き上げ、新設:14.2%
  • 給与表、賃金水準の引き上げ:16.6%

定期昇給での賃金改善をおこなっている施設がもっとも多いようです。

参考:令和3年介護従事者処遇状況等調査
参考:介護職員処遇改善加算 よくあるご質問(平成31年1月版)

処遇改善加算の取得状況

介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況によると令和5年度4月時点の加算取得状況は以下になります。

  • 処遇改善加算:93.8%
  • 特定処遇改善加算:77.0%
  • ベースアップ等加算:92.1%

上記の割合をみると9割以上の事業所が処遇改善加算とベースアップ等加算を取得されており、特定処遇改善加算に関しても8割に迫る勢いで取得されています。

もし分からないご自分の働く施設も取得されている可能性は十分ありますので取得状況に関しては確認しておきましょう。

参考:介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の請求状況

処遇改善加算の未払いは違法なのか?

介護職員への処遇改善加算は、必ず職員の賃金改善に使用しなければなりません。

ここでは、未払いに関する違法性について詳しくお伝えします。

全額を賃金として従業員に支払う義務がある

処遇改善加算は、全額を賃金として従業員に支払う必要があります。介護職員の賃金改善に使用される目的以外に使用する場合には、行政処分や算定取り消しにつながります。制度上は処遇改善加算をピンハネすることはできない仕組みにはなっています。

未払いなどの事例も存在するため事業所が取得している処遇改善加算についての理解を深めておきましょう。

処遇改善加算における不正とは?

処介護職員処遇改善加算を取得するには、次のような流れがあります。

  • 取得要件を満たす体制を整える
  • 収入見込み額・賃金改善見込み額を計算する
  • 就業規則・賃金規程等を改定し届け出る
  • 介護職員処遇改善計画書を作成し自治体へ届け出る
  • 介護職員処遇改善実績報告書を自治体に提出する

これらの手順における要件や書類に不備がある場合に不正として処分されることがあります。

処遇改善加算を職員の賃金改善に使用していない

処遇改善加算を職員の賃金改善に使用していない場合にも違法になります。

事業所の運営資金など賃金改善以外の用途には使用できない点も覚えておきましょう。

監査時に虚偽の報告をおこなう

監査とは、介護サービスや介護報酬請求について、不正が疑われる場合におこなわれる措置になります。

通常、介護事業者に実地指導を省略して監査が入るということはめったにありません。この時点で、内部通報や利用者からの苦情等によって、監査官は施設の状況をある程度把握してから立ち入りしています。

虚偽報告をおこなうことは、不正請求よりも重い処分の対象となってしまいます。

処遇改善加算の返還事例

処遇改善加算を取得されている事業所で算定要件を満たせなくなり、返還請求される場合もあるようです。

群馬県が公表している「介護保険事業者の行政処分について」によると令和3年度介護職員処遇改善加算などについて、不正に請求や受領した不正請求件数は122件にものぼるようです。

実際のケースでは、どのような場合に処分されているのでしょうか?

群馬県ではないのですが、返還事例を2例ご紹介します。

参考:【4月10日】介護保険事業者の行政処分について(介護高齢課)
参考:介護事業所の不正について

事例1.福岡県F市 訪問介護事業所

処分の内容:指定の取消し

・事業種別 :訪問介護、介護予防型訪問サービス

・不正事案の概要:必要な職員数を満たさない状態で運営を行い、また、介護職員処遇改善加算の実績報告に際し、虚偽の内容を記載する等し、請求が正当であったかのような報告を行った。

返還請求額:7,149,662円

※ 徴収金に100分の40を乗じて得た加算額を含む。

事例2.鳥取県T市

処分の内容:指定の取消し

・不正事案の概要:生活相談員及び介護職員の員数不足、看護職員が配置されていない。(人員基準違反)
実際に勤務していない従業員が勤務したかのようにタイムカードを偽造し、監査時にも勤務しているかのように答弁した。(虚偽報告・虚偽答弁)

介護職員処遇改善加算の対象となる介護職員の賃金改善額が、加算による収入額を下回っていたが、上回ったように偽装した。(不正請求)

処遇改善加算が減らされた時に考えられる原因

処遇改善加算が減額される原因にはさまざまなケースが考えられます。利用者の減少や加算区分の変更で加算率が下がる場合や支払方法の変更で基本給に上乗せされていた処遇改善加算が手当などへ変更されるケースです。

いずれにしても事業所からの説明は必ず必要になりますので分からないことがあれば確認しておきましょう。

基本給を減額し処遇改善手当を減額分に充てる

賃金改善に使用する処遇改善加算ですが、算定前の基本給等を減額し、減額分に処遇改善加算を充てることは賃金改善として認められない点には注意が必要です。

算定前の基本給当等は減額せずに、算定前の賃金よりも更なる賃金改善を行うようにしましょう。

認められない例:処遇改善加算 算定前 月20万円→算定後 月20万円(基本給15万円+処遇改善加算5万円)

参考:福祉・介護職員処遇改善加算に係る留意事項について

処遇改善加算の未払いに関する質問

未払い事例に遭遇した場合にどんな対処法があるのでしょうか?

未払いに関して他の方から寄せられる質問をご紹介します。

取得状況などはどこで確認できるの?

取得状況については、現在働いている事業所に確認することがもっとも確実です。本来であれば、処遇改善加算の算定状況については事業所は説明をおこなわければなりません。年度途中での入職などで説明されていない場合には、詳細について確認しておくようにしましょう。

もしも、問い合わせても説明されない場合には未払いなどの不正をおこなっている可能性があるかもしれません。

未払いについての相談ができる窓口はあるの?

未払いに関しての公的機関がおこなう専用の相談窓口は残念ながらないようです。自治体の介護担当の部署に相談をおこなうこともできますが、必ずしも対応していただけるとは限りません。

内部告発として訴えることで行政が監査の必要があると判断する場合もありますので不正を暴くためにも今後の方針に関してのアドバイスを聞いてみてはいかがでしょうか。また、未払い事例に関しては、労働基準監督署や弁護士などへも相談することができます。

弁護士への相談には費用がかかる恐れがありますのでご注意ください。

処遇改善加算は退職時にはどうなる?

処遇改善加算が一時金として支払われる場合、支給確定日まで在籍していたかどうかで処遇改善手当が貰えるかが決まります。

仮に12月に処遇改善一時金が支払われる場合は、〇月〇日までに在籍している者に支給するというルールが介護職員処遇改善計画書に記載されていると思いますので確認しておきましょう。

現在、退職を検討している場合には、この処遇改善一時金の支給確定日まで在籍しておくと一時金を取りこぼすことがないので、退職日の調整をおこないましょう。

処遇改善手当の今後の動向

2012年より始まった処遇改善加算制度ですが、介護職の平均賃金は処遇改善加算による影響もあり年々増加しています。しかし、他の産業に比べて未だに低い水準であり、物価高騰の影響もあってさらなる改善が求められています。

岸田首相は2023年10月27日の衆議院・予算委員会で、介護報酬改定での介護職の更なる賃上げに意欲を見せており、「必要な水準を検討していく」との見解を示しました。

現在の状況や岸田首相の発言から介護職員の賃上げは今後も継続しておこなわれる方針であると予想されます。

参考:岸田首相、報酬改定での介護職の更なる賃上げに意欲 

処遇改善は介護業界で働く権利でやりがいにもつながる!

介護業界における人手不足は深刻化しており、雇用定着や賃金改善を目的に処遇改善加算は創設されました。しかし、未払いやピンハネをおこなう悪質な事業所もニュースなどで取り上げられるため、わたしたち介護職員も処遇改善加算の概要を把握しておくことが大切になります。

また、ご自分の働く職場がどんな処遇改善加算を算定しているかを確認する際にも役立ちます。もしも未払いのケースに遭遇した場合には、解決に向けてこの記事を参考にしていただければ幸いです。

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