福祉の分野において、いくつかの資格がありますが、「社会福祉主事任用資格」はその中のひとつです。この資格を持っていても意味がないという意見を耳にすることもあるでしょう。特に、資格取得を検討している方にとっては、これらの意見が不安を感じさせ、資格取得をためらわせる原因になってしまうことがあります。
今後のキャリアの方向性を定めるうえで、有益な情報を提供しますので、ぜひ参考にしてください。
そもそも社会福祉主事とは?
社会福祉主事任用資格について説明する前に社会福祉主事の概要をみていきましょう。社会福祉主事は、社会福祉法第18条および第19条において、その資格が定義づけられております。
第19条によると、都道府県や市町村で公務員として社会福祉に関する仕事を行うために必要な資格(条件)が社会福祉主事任用資格とされており、試験を受けて合格することで得られる資格ではなく、それぞれのルートから取得する必要があります。
資格特徴として、有効期限は特になく、試験があるわけでもないため、合格率などがありません。資格難易度も各ルートを遂行できるかが問われるため、福祉系の大学などに通われている場合は低いと言えるでしょう。
参考:社会福祉法
「主事」と「任用資格」の意味
上記で社会福祉主事の概要をお伝えしましたが、難しく感じる方も多いでしょう。主事や任用資格といった難しい単語が並んでいるため、概要が掴みづらいですよね。ここでは、それぞれの意味をご説明します。
まず、任用資格とは、公務員として特定の職業に就く際に必要となる資格(条件)を指します。社会福祉主事の「主事」とは、都道府県や市町村で働く公務員として働く職員の職名のひとつになります。
一般の会社で置き換えると一般社員のような位置付けになります。一方、「任用資格」とは、上記のような公務員として特定の職位や職業に就く際に必要となる資格(条件)を指します。
社会福祉士との違い
社会福祉主事に似た名称に社会福祉士が存在します。それぞれの違いについてみていきましょう。まず、社会福祉士は、「社会福祉士及び介護福祉士法」にもとづく国家資格に該当します。
社会福祉士は、「社会福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整、その他の援助を行うことを業とする者をいう」と位置づけられています。
上記によると、国家資格である介護福祉士に対して、
社会福祉主事は国家資格ではなく、あくまで公務員として働く職名になるので「資格の名称と職名」といった明確な違いがあります。
参考:介護福祉士とは
社会福祉主事任用資格の取得が意味がないと言われる理由
社会福祉主事任用資格を持っていても意味がないといった意見が一部存在するようです。果たして、任用資格の取得は意味がないのでしょうか。ここでは、意味がないと言われる理由を解説していきます。
行政以外での有用性が乏しい
これまで社会福祉主事になるために必要な条件が社会福祉主事任用資格であることを説明しました。社会福祉主事になるには、任用資格の取得だけでは不十分なのです。
次の式をご覧ください。
社会福祉主事=社会福祉主事任用資格+公務員採用
上記の式では、任用資格にプラスして公務員試験に合格しなければ、主事として名乗ることができません。また、任用資格を活用したくても、公務員などの行政以外での有用性が乏しいため、一部の方から意味がないと言われているようです。
社会福祉主事になるためには?
意味がない理由をお伝えしましたが、
公務員を目指す方、福祉における知識を習得したい方にとって任用資格の取得は大いに意味があると言えます。
ここでは、社会福祉主事になるための流れを紹介します。
社会福祉主事任用資格を取得
- 社会福祉主事任用資格の必要要件をクリアします。任用資格を取得するルートは5つあるのですが、後ほど詳しく解説します。
- 福祉職の公務員試験を受験し合格する。
公務員試験はすべての自治体で統一されている訳ではないため、事前に志望する自治体の受験資格について確認しておきましょう。公務員試験では、上級(大卒)、中級(短大卒)、初級(高卒)まで「程度」が分かれており、福祉職の公務員は上級に位置付けられるでしょう。地方上級とは、都道府県、政令指定都市(政令市)、東京都特別区の大卒程度の採用試験の総称です。
その一方、地方上級以外(政令市以外の市役所、町村役場)の中にも、福祉職の上級などと呼ぶ自治体があります。こうした自治体の「上級」も一般的には、大卒程度の採用試験を意味することが多いです。また、地方公務員の福祉職の試験内容は、教養試験(基礎能力試験)、専門試験、面接試験(口述試験)、論文試験を1次試験と2次試験に分けて行い、2次試験に合格した方が採用されるといった流れになります。
社会福祉主事任用資格の取り方
ここからは、社会福祉主事任用資格の取り方について5つのルートをそれぞれ解説します。
大学・短期大学ルート
まずはじめに、大学や短期大学において、厚生労働大臣が指定する社会福祉に関する科目から3科目以上を履修して卒業取得できます。
この指定科目は、時代の変遷とともに科目名の変更を行っているため、年度において規定されていた指定科目名が該当科目かをご自分で確認することが必要です。
通信課程ルート
社会福祉主事任用資格は通信課程からのルートも存在します。全国社会福祉協議会が運営する中央福祉学院の社会福祉主事資格認定通信課程もしくは日本社会事業大学の社会福祉主事養成課程をいずれも1年間修業することが条件になります。
参考:社会福祉主事養成課程
参考:社会福祉主事資格認定通信課程
指定養成機関ルート
3つ目は、指定養成機関ルートです。社会福祉主事養成機関で指定の科目(22科目・1,500時間)を修めて卒業することでも取得できます。養成機関の多くは2年~3年制の専門学校になります。
社会福祉主事養成施設の一覧は、厚生労働省の「社会福祉主事養成施設一覧」で確認することができます。
参考:社会福祉主事養成施設一覧
都道府県など研修会ルート
4つ目は、都道府県等がおこなう講習会で指定の科目を19科目・279時間を受講し取得するルートです。
国家資格取得ルート
そして、5つ目は、国家資格である社会福祉士、または精神保健福祉士の資格を取得している場合です。上記2つの資格を持っていれば社会福祉主事任用資格も得られます。
それぞれのルートを説明しましたが、任用資格取得に向けては、ご自分にあった方法を選びましょう。
社会福祉主事任用資格の証明方法とは?
社会福祉主事任用資格は、決められた証明書などの書式はなく、資格証明書や合格証明書といったものは存在しません。しかし、証明するための書類に関しては下記のような書類が該当するでしょう。
- 福祉専門職の登録証
- 卒業した大学の履修証明書
- 指定養成校の履修証明書
などが該当します。
履歴書への記載はできますが、資格取得日に関して資格要件を満たした日を記載するようにしましょう。
社会福祉主事の主な仕事内容とは?
社会福祉主事の主な仕事内容をご紹介します。社会福祉主事は福祉事務所で現業員または査察指導員として働きますそれぞれの業務内容は以下になります。
- 現業員 福祉事務所を訪れる人の相談に乗り、生活保護申請の受付をおこなう。各家庭に応じた生活保護費の検討・金額の見直しのため、家庭や入院先などを訪問し、生活状況を記録する。職業安定所(ハローワーク)などで仕事を探すように促し、生活における問題を解決できるような情報提供をおこなったりすることも役割のひとつです。
- 査察指導員 生活保護の申請書を確認したり、申請者の面接をおこない受給資格があるのかを調査する。調査対象は個人や家族の生活状況、資産、収入、職業などになります。また、生活保護費の受給者および受給希望者を訪問する現業員の指導・助言もおこないます。福祉事業法により、7名の現業員につき1名の査察指導員の配置が義務づけられる。
社会福祉主事任用資格が必要な職場
社会福祉主事任用資格が必要な職場としては福祉職の公務員や特別養護老人ホームの施設長、児童福祉施設(児童養護施設など)、障がい者施設(精神障がい者社会復帰施設など)、児童福祉施設、母子福祉施設などが該当します。
民間であれば、施設長などのキャリアアップを目指す際に効果を発揮することとなります。
社会福祉主事任用資格を活かすには?
社会福祉主事任用資格を最大限活かすにはどのような場面が想定されるでしょうか?
取得しても意味がないと言われる一方、一部の方にとっては必要不可欠とも言えます。ここでは、公務員以外の社会福祉主事任用資格の使い道などもご紹介します。
福祉職公務員を目指す
福祉職の公務員になるために必要な資格に社会福祉主事任用資格があります。そのため、福祉に携わりながら安定した収入を得られる公務員として働く際にはもっとも活用できるでしょう。
公務員試験は年齢制限こそありますが受験資格をクリアできれば何度でも受験可能です。倍率なども高く険しい道ではありますがチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
特養の施設長を目指す
公務員以外で社会福祉主事任用資格を活かすには、特別養護老人ホーム(特養)の施設長を目指すのもおすすめです。特養の施設長および管理者の資格要件には、社会福祉主事資格の要件を満たす者と定められており、取得することで特養における施設長を目指すことができるからです。
社会福祉における基本的な知識を習得できるので介護や福祉の業界での就業を考えている方はスキルアップに向けて取得されてみるとよいでしょう。
将来働く職場を想像すると取得が必要か見えてくる!
社会福祉主事任用資格は、資格の性質上、限られた場合でのみ必要になります。そのため、取得を迷われている方は、キャリアビジョンを明確にしてから資格の必要性を検討されてみてはいかがでしょうか。
福祉職の公務員を目指す場合には必要となるため、意味がない資格ではありません。将来像が明確に定まっている方は取得へ向けて行動しましょう。