特定事業所加算を取得することで、訪問介護事業所のサービス向上に対する取り組みが評価され、収益の向上にもつながります。しかし、届け出の煩雑さや要件を満たすための手間に負担を感じることもあるでしょう。
特定事業所加算の種類5つと単位数
特定事業所加算とは、専門性の高い人材の確保と、質の高いサービス提供に取り組んでいる事業所を評価する加算です。特定事業所加算には、Ⅰ~Ⅴの5種類があり、それぞれ要件と加算される単位が異なります。
訪問介護の特定事業所加算の種類と単位数は以下のとおりです。
- 特定事業所加算Ⅰ:所定単位数の20%を加算
- 特定事業所加算Ⅱ:所定単位数の10%を加算
- 特定事業所加算Ⅲ:所定単位数の10%を加算
- 特定事業所加算Ⅳ:所定単位数の5%を加算
- 特定事業所加算Ⅴ:所定単位数の3%を加算
参照: 厚生労働省|社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)【資料1】訪問介護
算定要件とチェックシート
特定事業所加算の算定要件は、種類によって満たすべき項目に違いがあります。また、事業所が満たす要件は、チェックリストを活用すると確認しやすく便利です。
ここでは、訪問介護の特定事業所加算要件と、チェックリストについてご紹介します。
算定要件|体制要件・人材要件・重度要介護者対応要件
体制要件
(1)計画的な研修の実施
事業所の全ての訪問介護員等ごとに研修計画を作成し、計画に従い実施または予定していること。
(2)会議の定期的開催
利用者情報、サービス提供の留意事項の伝達、訪問介護員の技術指導を目的とした会議を定期的に開催すること。
(3)文書等による指示及びサービス提供後の報告
サービス提供責任者が文書等で利用者情報やサービス提供の留意事項を伝達してからサービスを開始し、終了後は訪問介護員から報告を受けること。
(4)定期健康診断の実施
全ての訪問介護員等に対し、健康診断を定期的に実施すること。
(5)緊急時における対応方法の明示
緊急時等の対応方法が利用者に明示されていること。
人材要件
(6)訪問介護員等要件
訪問介護員等の総数のうち、介護福祉士が30%以上、または介護福祉士・実務者研修修了者・介護職員基礎研修課程修了者・1級課程修了者の合計が50%以上であること。
(7)サービス提供責任者要件
全てのサービス提供責任者が実務経験3年以上の介護福祉士、または実務経験5年以上実務者研修修了者・介護職員基礎研修課程修了者・1級課程修了者であること。
ただし、指定居宅サービス等基準第5条第2項により、1人を超えるサービス提供責任者の配置が必要な事業所においては、常勤のサービス提供責任者を2名以上配置していること。
重度要介護者等対応要件
(8)重度要介護者等対応要件
前年度又は算定日が属する月の前3月間の利用者総数のうち、要介護4以上、認知症の日常生活自立度Ⅲ以上、たんの吸引などが必要な利用者が20%以上であること。
【種類ごとの満たす要件:Ⅰ~Ⅴ】
- ◆特定事業所加算Ⅰ:(1)~(8)
- ◆特定事業所加算Ⅱ :(1)~(5)、(6)または(7)のいすれか
- ◆特定事業所加算Ⅲ :(1)~(5)、(8)
- ◆特定事業所加算Ⅳ :(2)~(5)
- 事業所の全てのサービス提供責任者ごとに研修計画を作成し、計画に従い実施または予定していること。
- 人員基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を配置していること。
- ◆特定事業所加算Ⅴ :(1)~(5)
- 訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者が30%以上であること。
参照:
新潟県|特定事業所加算(訪問介護)
宮城県|特定事業所加算(訪問介護)算定に係る提出書類
特定事業所加算のチェックシート活用
訪問介護の特定事業所加算は要件が細かく、取得している間も要件を満たし続ける必要があります。過誤が生じると返還になる場合があるため、しっかり確認することが重要です。
事業所が満たす要件は、チェックシートを活用して確認するとよいでしょう。チェックシートは、市区町村のホームページなどから入手できます。
届出に必要な書類
特定事業所加算の届出に必要な書類は、Ⅰ~Ⅴの種類ごとに異なります。ここでは、特定事業所加算の新規届出に必要な書類一覧と、Ⅰ~Ⅴの種類ごとの提出書類を解説します。書式の名称などは地域によって異なるため、各都道府県や市区町村のホームページでご確認ください。
【特定事業所加算の届出書類】
(1)研修計画
個別研修計画書:個別の目標、内容、実施日、期間などが記載されているもの
(2)会議の開催状況(計画)を記した書類
・開催したことを記録した書類(会議記録の写しなど)
・定期的な開催を示す書類(会議の開催を定めた文書など)
(3)サービス提供責任者と訪問介護員等の伝達、報告の流れを示す書類
伝達や報告の文書様式、連絡網、マニュアルなど
(4)健康診断等の計画書または実施を証明する書類
事業者負担による定期的な健康診断の実施(予定)記録
(5)緊急時の対応方法を明記した文書
利用者に交付した重要事項説明書など
(6)訪問介護員等の勤務実績
勤務表、資格証の写し
(7)従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
・サービス提供責任者の勤務体制がわかるもの
・勤務表、資格証の写し、実務経験を記した経歴書
(8)重度要介護者等の状況
割合の根拠を示す書類
【全ての事業所が提出するもの】
・介護給付費算定に係る体制等届出書
・特定事業所加算に係る届出書
【種類ごとの提出書類:Ⅰ~Ⅴ】
- ◆特定事業所加算Ⅰ:(1)~(8)
- ◆特定事業所加算Ⅱ:(1)~(5)、(6)または(7)のいずれか
- ◆特定事業所加算Ⅲ:(1)~(5)、(8)
- ◆特定事業所加算Ⅳ:(1)~(5)、(7)、(8)
- ※(1)はサービス提供責任者の個別研修計画
- ◆特定事業所加算Ⅴ:(1)~(5)、(7)
- ※(7)は勤続年数割合要件の根拠となる書類(勤務表など)
参照:
新潟県|特定事業所加算(訪問介護)
宮城県|特定事業所加算(訪問介護)算定に係る提出書類
特定事業所加算のメリット・デメリット
特定事業所加算の取得は、訪問介護事業所にとって収益の安定が見込めるなどのメリットがあります。反対に、届出にかかる手間など、デメリットも存在します。特定事業所加算を取得するメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット
訪問介護の特定事業所加算を取得するメリットは、以下の3つです。
事業所の収益が安定する
訪問介護では、最も加算割合の高い特定事業所加算Ⅰで所定単位数の20%が加算されます。
サービスごとにあらかじめ報酬が決められている介護サービスにとって、加算の取得は経営の安定化につながります。
質の高さの証となり、信頼を得られる
特定事業所加算は、よりよいサービス提供のために専門性の高いヘルパーが訪問したり、人材育成の取り組みをしたりすることで評価される加算です。特定事業所加算を取得していることは、質の高いサービス提供をする事業所の証明になるといえるでしょう。
良質な支援を評価されることで、利用者や家族、ケアマネージャーからの信頼が高まります。
ヘルパーの採用や離職防止につながる
ヘルパーの採用や定着に効果がある点も、特定事業所加算を取得するメリットです。事業所の収益が安定していれば、ヘルパーに還元できる資源の確保も可能になります。 また、介護福祉士を取得しているヘルパーは、専門性を発揮して利用者に貢献したい気持ちを持つ、意欲の高い方が多いです。
保有している資格と技術が評価される職場は、やりがいを感じて事業所に愛着がわきやすいでしょう。
デメリット
つぎに、特定事業所加算を取得する2つのデメリットをご紹介します。
届出や継続のための負担が大きい
特定事業所加算の取得にかかる手間の多さがデメリットの一つです。特定事業所加算の届け出は、複雑な要件と作成する書類の多さで作業量が大きくなります。
取得後も要件を満たすための取り組みを行う必要があり、取得している間はずっと続きます。新規届出にも、継続にも手間が多くかかるため、負担に感じる事業所もあるでしょう。
サービスの利用料金が高くなる
特定事業所加算で取得する単位数は、サービスの利用料金に加算され、利用者が負担して支払います。そのため、利用者の金銭的な負担が大きくなるのがデメリットです。また、できるだけ低い料金を希望する利用者にはマッチしなくなるため、ケアマネージャーからの新規依頼に影響する懸念も生じます。
ただし、そのぶん優れた技術と専門性の高いサービスを提要できるため、メリットを感じてもらえれば、料金のハードルも下がるでしょう。
特定事業所加算で収益アップ!より働きたくなる職場を目指そう!
訪問介護の特定事業所加算を取得すると、質の高いサービスを提供している証明となり、事業所の収益も安定するメリットがあります。加算で得た収益は、ヘルパーの給料や仕事環境の向上に使うことができるため、ヘルパーの満足度が上がり離職防止にもつながるでしょう。
特定事業所加算は、届出や要件を満たし続ける負担はありますが、それ以上に魅力が大きい加算です。収益を安定させ、ヘルパーがより働きたくなる職場を作りましょう。