「施設の看護師は使えない」という意見を聞き、介護施設への転職を躊躇している方も多いのではないでしょうか。病院と介護施設では、看護師としての仕事の目的や業務内容が異なります。それぞれの違いを理解すれば、優れた施設看護師として活躍することができます。
施設の看護師とは|病院の看護師と施設の看護師の違い
介護施設の看護師として働く場合、病院の看護師と介護施設の看護師の違いを理解することが充実した仕事のポイントです。以下に記載した違いを確認しましょう。
目的の違い
病院が病気の治療を目的としているのに対し、介護施設は健康で安全な日常生活の提供を目的としています。
対象者の違い
病院が病気で受診・入院している患者を対象にしているのに対し、介護施設の対象者は65歳以上の要介護認定を受けた高齢者が基本です。
役割の違い
病院で働く看護師の役割は、医師の診察にもとづく診療や治療の補助、病気やケガなどでケアが必要な患者への看護の提供です。一方、介護施設の看護師は、利用者の健康管理や健康維持に必要な医療ケアの提供、必要に応じた処置などが中心です。介護施設は緊急に医療が必要な状態は少なく、主に日常的な体調確認や状態の観察、薬の管理や軟膏塗布を行います。
介護施設の看護師は、居住する高齢者への健康管理と健康維持のためのケアを行うことで、入居者の日常生活を支える役割があると言えます。
介護施設の看護師が使えない・働かないと言われる理由とは
介護施設の看護師は、医療の知識と専門性を持つ欠かすことのできない存在です。
重要な役割を担う看護師が「使えない」と言われるのはなぜなのでしょうか?
理由を見ていきましょう。
看護師と介護士の役割や仕事内容の違いを理解していない
施設看護師が「使えない」と言われる理由の一つが、介護士の仕事と役割を理解していないことです。介護施設では、看護師は介護士と一緒に働いて入居者に生活の場を提供します。看護師と介護士では担う役割が異なりますが、どちらも専門性のある重要な仕事です。それぞれの仕事内容を理解し合うことが良い関係を築くポイントです。
仕事内容を理解していないことで、看護師が薬の準備などの重要な業務を行っているときでも、介護士からはただ座って働いていないように見えてしまう事例があります。
同様に、看護師が施設における介護士の重要性を理解していないと、スムーズな連携は難しくなります。介護施設は入居者の生活環境を提供するサービスのため、業務の多くは介護士が担っていると理解することが重要です。
看護師と介護士の仕事内容をお互いにわかっていれば、業務を尊重し合うことができるでしょう。
上下や優劣でスタッフとの関係を考えてしまう
看護師と介護士の関係が悪い職場では、介護士を下に見る看護師や、看護師から見下されていると感じる介護士の事例が見られます。看護師と介護士はどちらも施設の運営に欠かせない重要な役割があり、上下関係は存在しません。
利用者をチームで支える意識が薄い
介護施設は利用者の健康を管理し生活をサポートする場所です。仕事内容に違いがあっても、施設の目的は同じです。施設の運営は看護師や介護士、清掃員、調理員といったすべてのスタッフの業務によって成り立っています。 ですが、ひとつの職種の範囲だけしか見えていないと、スケジュールや仕事のペースが不公平だと感じる場合があります。
利用者の健康と生活をチームで提供していると捉え、施設のスタッフ全体を意識して関わることが大切です。
看護師と介護士の関係・仕事内容
介護施設では、看護師と介護士は対等な関係です。ここでは、施設の看護師と介護士の仕事内容を紹介します。
介護施設|看護師の仕事内容
施設における看護師の主な役割は、医療の知識や経験を基にした入居者の健康管理です。また、医療行為や緊急時の処置、一部の介護業務も担います。
入居者の健康管理
毎日のバイタルチェック、健康状態の確認に加え、ガーゼ交換やケガの処置、軟膏塗布なども仕事に含まれます。健康管理と衛生のため、歯磨きの介助や爪切りも行います。
体温・血圧・脈拍の測定、記録 / 爪切り・口腔ケア・耳垢の除去 / ガーゼ交換、ケガの応急処置 / ストーマ器具の交換 / 軟膏塗布 / その他日常生活のサポート
医療行為
介護施設の入居者には、何らかの医学的管理が必要な方が多いです。定時の服薬や点滴、医師からの指導による採血など、医療行為も提供します。医師や入居者の家族などと連携し、適切なサービスを行います。
薬の管理、投薬 / 点滴 / 採血 / 痰の吸引 / 尿道カテーテルの挿入 / 褥瘡のケア / 胃ろうなど
介護業務
施設の看護師は、介護業務も担います。施設の規模や介護士の人数などにより携わる業務の範囲は異なりますが、施設の運営スケジュールに看護師が組み込まれている場合もあるでしょう。
食事・入浴・更衣・排泄介助など / 行事やレクリエーションの補助 / 食事の見守り、利用者の見守りなど
介護施設|介護士の仕事内容
施設で働く介護士の主な仕事内容は、利用者の身の回りの介護や生活のサポートです。また、身体介護や日常生活に必要な支援、運動や行事の実施なども業務に含まれます。
介護業務
介護士の業務は、入居者の身体介護や生活の支援、行事の実施や食事の配膳などです。ただし、介護士が提供する身体介護や生活の支援の範囲は、施設によって異なります。日常的・定期的な介護が必要になった場合、利用者自身が外部の訪問介護事業所と契約し、ヘルパーによる訪問介護サービスを利用する形態の施設もあります。
食事・入浴・更衣・排泄介助など / 施設や居室内の環境整備 / 掃除や洗濯の支援(施設により異なる) / 行事やレクリエーションの企画、実行 / 食事の配下膳、見守り / 巡回、利用者の見守り / コミュニケーションなど
対等かつ協力する関係
介護施設の仕事には、看護師と介護士で異なる内容があるものの、連携できる部分も多いです。お互いの状況を見ながら、必要な部分は協力し合うと施設全体の運営がスムーズになります。それぞれの専門性に敬意を持ちながら、対等に関わることで魅力的な職場になるでしょう。
デキる施設看護師の仕事術!介護士と連携する4つのコツを伝授
介護施設の看護師として働くとき、介護士と良い関係を築くことは充実した仕事のために重要です。介護士と協力・連携するコツを4つ伝授しますので、ぜひチェックしてください。
お互いの業務を理解・尊重する
看護師と介護士は、お互いの業務を理解することが大切です。その上で、相手の仕事を尊重し敬意と思いやりをもって関わると、良い関係を築けるでしょう。
介護士との関係が良ければ、お互いに信頼し、協力も得やすくなります。
業務の目的を共有する
業務の目的について、看護師と介護士で共通の認識を持つことも大切です。利用者の健康管理と安心できる生活の提供を、スタッフ全員のチームケアで目指しましょう。また、業務の中にはお互い重複した内容を担う場合もあります。
一つひとつの行為に共通の目的を持てれば、一体感が生まれて連携を図りやすくなります。
意見交換・相談をする
入居者の状態や生活状況に変化があれば、対応について介護士にも意見を求めてみましょう。介護士は看護師よりも多く利用者の生活に関わっています。生活に関する情報や意見が必要なときは、介護士とも情報交換・相談することで適切な方法が見つかる場合もあります。
積極的に意見交換し、コミュニケーションをとることで、お互いに協力・連携しやすい下地が作られるでしょう。
日頃から協力する姿勢を示す
必要なときだけではなく、日頃から協力する姿勢を見せることで、いざというときに連携しやすくなります。介護士の人手が足りないときに自分の手が空いていたら、何か手伝うなど無理のない範囲で関わりましょう。
看護師が複数いる施設の場合、自分一人だけではなく看護師全員で取り組むのがポイントです。
他の看護師も同意する範囲で関われば、スタッフ全体の満足度が高まります。
施設看護師の辛いこと
介護施設で働く看護師が辛いと感じることをご紹介します。
人間関係が悪い
介護士と敵対関係になっている職場の場合、働いていて辛いと感じる方もいます。人間関係の改善にエネルギーを使いすぎると、疲れてしまうでしょう。
責任が重い
医師がいない施設の場合、緊急時の判断を看護師に委ねられることがあります。緊急性の高い状況は病院に比べて少ないですが、何か異常が起きたときの責任の重さで辛くなるケースがあります。
オンコール対応がある
施設によりますが、オンコール対応のある職場では、出勤時間外の行動が制限されるのが辛い点です。
収入が少ない
看護師全体の平均給与に比べ、介護サービスで働く看護職員の平均給与は少なくなっています。以下は、厚生労働省が令和4年度に行った調査の結果です。
看護師の平均給与(役職者を除く手当などを含めた賃金の月収換算)
約40万円
介護サービスで働く看護職員の平均給与(常勤の手当てなど含む月収)
約37万円
参照:
厚生労働省|図表1-2-24 看護師の平均賃金(役職者除く)(月収換算)
厚生労働省|令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(第83表)
看護師が介護施設で働くメリット
看護師が介護施設で働くメリットは以下の通りです。
病院と比べて身体の負担が少ない
1日の生活を通して入居者の健康を管理するのが主な業務です。病院と比べて緊急対応が少なく、身体的負担が軽減される傾向にあります。
ブランクがあっても働きやすい
新しい病例や技術がスピーディーに導入される病院とは、求められる業務も対象者も異なるため、ブランクのある方でも比較的働きやすい環境です。
夜勤のない施設も多い
介護施設には入居サービス以外の種類もあり、デイサービスは基本的に日中のみの営業となっています。入居サービスでも夜勤や残業のない施設も多いため、日勤を希望する方や家庭と両立したい方には働きやすいと言えます。
デイサービスの看護師についてはこちらもご覧ください

看護師が病院から施設へ転職するときのポイント
次に、病院で働く看護師が介護施設に転職する時のポイントをご紹介します。
病院と介護施設の違いを理解する
病院と介護施設の目的の違い、仕事内容の違いなどをしっかり理解して転職することがポイントです。病院と介護施設では、メインの業務や1日の流れが大きく異なるためです。
事前に確認しておくことで、働いてからのイメージ違いを防げます。
希望の収入を明確にする
勤務先にもよりますが、病院で働く看護師に比べ、介護施設で働く看護師は収入が低くなる可能性があります。
希望の給与を明確にして、あまりに差がある職場は除外して探すと転職の満足度が上がるでしょう。
【おすすめ!】まずは単発で体験してみる
理想の働き方に出会うには、転職する前に単発バイトで施設の仕事を体験するのがおすすめです。看護師に特化したバイトアプリ「カイテク」を利用すれば、掛け持ちで働くことや、条件の合う職場にそのまま転職することも可能です。
いくつかの介護施設を経験してみると、自分に合った職場や働き方がわかるでしょう。
介護施設は看護師と介護士の協力が重要!尊重し合って充実して働こう
介護施設の看護師は、利用者の健康管理と安心できる生活の場の提供を目的として業務に携わります。病院とは仕事の目的や内容が異なるため、注意してください。介護施設で充実した仕事をするには、介護士をはじめとする他の職種との連携がポイントです。気持ちよく働くために、お互いを尊重して協力しましょう。